第十七話


二日目、なんだかおっちゃんおばちゃん夫婦を思い出す様なのどかな村で休む
ことになった。それでも森の村に比べたら大分こっちの方が大きいけど。

村に一軒だけの宿屋にチェックイン・・・、あー、こっちじゃなんて言うんだろう。
セーブ?んなバカな。とか一人ノリ突っ込みをしながら部屋へと向かう。ゼー
トは何か用があるらしい。
どこの宿屋も同じようなモンなのか、ここも木で出来ていて良い感じだった。
日本人には木だよやっぱ。我侭言うと鉄筋。つってもこの世界にはコンクリー
トなんて無いけど、美しい自然に満たされすぎて逆にそーいうのが恋しくなっ
てきた。芯まで汚れきってるな俺。アレだよ、無農薬野菜とか食ってると無性
にジャンクフード食いたくなる派だ。

窓際のベットを堂々と分捕ってゴロ寝していたら、ゼートが戻ってきてちょっ
と呆れたような目をした。ハン、俺は昨日新たに生き方について悟っちゃった
ので遠慮はしねぇぜ。開き直ったとも言うが。

「ここを出れば直ぐ、トリンキュローに着く」

「意外と早かったなぁ。流石ジェード」

ジェードのことになると、普段あまり表情の変化しない男でもありありと嬉し
そうな顔をする。ただ俺がこいつを見慣れただけかも知れないけど。でもこい
つにとってジェードが特別な存在なんだってことは確実だ。これでスカイのこ
とを知ったらどんな反応するんだろう。


「そういえばさ、うちのナアラがジェードの子供生んだんだよね」


ゼートの反応を期待を込めて見つめたが、やつは上着を脱いでいた手をぴたり
と止めて硬直している。面白い。しばらくしてゆっくりと振り返ったゼートは、
俺の年齢を知ったとき並に驚愕していた。
・・・・・嫌な比較対照思い出しちまったな、クソ。

「―――それは本当か」

「俺嘘ツカナイ」

意趣返しにふざけた返事をしてみたら、あからさまに胡散臭げな雰囲気で俺を
見た。ごめん、あんたには嘘つきまくりですよ。

「マジでほんとだって。ジェードにそっくりな男の子だよ」

笑いながらフォローすると、今度こそゼートは嬉しそうに口元を綻ばせた。ほ
んの少しだけど、それでも随分と雰囲気は柔らかくなる。あんた絶対愛想良く
してた方がいいって、もったいない。

嬉しそうなゼートに俺も嬉しくってニマニマ笑っていたら、ふとゼートが口を
開いた。

「それで、その仔の名は?」

「・・・・・・・・・・・・」

・・・・不意打ちでしかもピンポイントに言いにくいところを突いてきますね。そ
れがあんたのアサシンとしての才能なのか。俺に使うな馬鹿。別に由来があん
たの目だからって何の他意も無いんだけどなんか言いにくいんだよ。

チラリと横目で見たゼートは黙って答えを待っている。はいはい、言いますとも。

「・・・・・・・ブルースカイ」

「ブルー、スカイ?」

「そ」

「どういう意味だ?」

それ以上何も聞いてくれるなと思ったが、それは無駄だった。そりゃそうだ
よな、普通由来とか気になるモンだよな。ただでさえ聞き慣れない言葉だろう
し。

「あー、“青空”って言うんだけど」

「青空・・・? 何故」

「ジェードと言ったらあんただし。なんかあんたの目が浮かんだからそうつけ
 たの」

どんな反応されるのかと思って見てみたら、さっきまで柔らかい雰囲気だった
のに少し表情が硬くなっていた。やっぱり馬の名前に利用されたのは不愉快で
したか。お前の可愛いジェードの仔なんだけど、駄目でしたか。

「勝手に使って悪いとは思うけど、別に変じゃないし良いだろ?青空って俺な
 りにかなり絞った褒め言葉なんだけど」

かるーく謝ってみたりして様子を伺う。ゼートはただ黙って俺を見ているだけ
だ。すいません真面目に謝るんでその顔で見ないで下さい。


「――そうか、」

俺が本気出して謝る前にゼートがふっと微笑った。良かった、マジでキレる5
秒前かと思った。うん、俺はあんたがそんな度量の低い男じゃないって信じて
たよ。

「そのように例えられたのは初めてだ」

ベットに腰掛けて薄く笑っているゼート。肘をついて頭を支えながら眺めてみ
る。そりゃあアンタの周りにいるやつらだったらもっと上手い表現出来んでし
ょうよ。二流私大出身にそんな上等な言葉を求めないでくれ。俺の中で青のレ
パートリーと言ったら空と海ぐらいだ。あー後はサファイア? でもこの世界で
「サファイアの様に美しい」なんて言ったって通じねーだろ。それ以前の問題
として男に言うモンでもないしな。

ぼーっとゼートの目を見ながら考えていたら、ゼートも俺を見ていたのでいつ
の間にか見詰め合う形に。なに男同士で寒いことやっちゃってんだ俺ら。


「なら、お前は夜空だな」


思わず肘をずらして枕に突っ伏した。だから寒さを増長させてどうすんのアン
タ。言い出した俺が悪いのか、むしろ俺が寒かったのか。そういえばあんたは
そういうコト言っちゃうやつだったよね、すっかり忘れてたよ。


「あんたってさー・・・」

「何だ」

「・・・・・・・や、も、寝ようぜ・・・」

「? ああ、」

「おやすみ・・・」

「・・・・・・・お休み」





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