第十四話


やっぱり町中だけあって森よりは随分と暖かい。それに大勢の人間を見たのな
んて久しぶりだからすっげえテンション上がるわ。そんな自分がちょっと悲し
いけど。

俺は今町の大通りみたいな所にいる。これからちょっとした遠出になるから、
その準備のために。地球生まれにはちっとも判らないが、着替えとか保存食と
か色々必要らしい。ゲーム的に言ったら毒消しとか?と思って訊いてみたら、
本当にあってビビッた。冗談だったのに。

そういえばあの男の名前、ゼートと言うらしい。俺が知らなかったことに理不
尽にも驚いてやがった。それに“セタ”が俺の名前じゃなくて苗字だって知っ
たときも。・・・これは俺が悪かったな、この世界の名前がどうなってるかなんて
知らなかったから。ここで言ったら俺は“ユーシン・セタ”だ。別にセタのま
までも良かったんだけど、まだユーシンの方が発音に無理がなくて聞きやすい
からそう呼んでもらうことにした。


今ゼートはよくわからん変な店に入っている。たぶん、薬屋? なのだろうが、
もう全然判らない。さすが異世界。こんなトコ入っていけるゼートに乾杯。
俺は人の流れを見ていたかったので店の外で待つことにした。別に店長が怖か
ったとかそんなんじゃない。やっぱりこういう活気みたいのは懐かしいし、見
たこと無いモンばっかりですげえ面白い。どう考えても食えねーだろあの色。

この町は俺が捕まってたトコからそんな離れてはいないらしい。だから一応、
頭まですっぽりと外套で隠している。これもゼートに買って貰ったモンでなか
なか心苦しい、だって家にあるやつより格段に上等だ。いくらだよこれ。

選んでる最中、値段とか聞いてみたんだけどサッパリだった。村じゃ物々交換
だったし。それでも俺なりに安そうなの選んだつもりなんだよ、ショボイのは
却下されたけど。それに2,3着目で店員が赤薦めてきた時には全力で拒否し
た。そんな派手なの着てどうすんだよ、逃亡者が。
それからゼートのお眼鏡にも適い、俺もおそらく納得プライスだったのがこの
濃紺のやつだ。俺に似合いの地味な形だ。

「待たせた」

やっとゼートが変な店から出てきた。・・・うおお、ちょっと貴方あのワケ判らん
臭い付いちゃってますが。男前が台無しですよ。それとは気付かれない程度に
距離をとる。

「もう必要なモンとか無いの?」

「ああ。これでトリンキュローまではもつ筈だ」

なんでもそのトリンキュローっていう所に知り合いがいるらしい。その人なら
“メリディアナの涙”について知ってるかもしれないんだと。つーかそんな人
と知り合いなゼートがまず謎だし未だにあの屋敷に居た理由も判ってない。訊
いたら微妙な顔で沈黙された。・・・・うん、アレだよね、やっぱり暗殺とかなん
でしょ?

ここはひとつ、「知らぬが仏」精神でいきたいと思います。家訓の一、「触らぬ
神にたたりなし」も該当。俺は常に逃げの体勢で生きてる。

「ここからどれぐらい離れてんだっけ? その、ト、トリンキュロー」

「大体馬で二日といったところか。お前の森はあの屋敷から半日、この町で一
 日程度離れている」

「へえ、結構離れてんだな・・・。しかも二人乗りで。ジェードには悪いことになっ
 ちゃったな」

「お前程度では何の支障も無い」

「・・・・・・そうですか」

仕方ねーだろ、畑仕事でなんか引き締まっちゃったんだから。怠惰な大学生活
の名残ゼロだ。むしろ筋肉は付いたのに見た目がヒョロイのが納得いかん。
・・・いや、俺がヒョロイんじゃないな、この世界のやつが骨太なんだ。日本人は
骨細なんだ。俺は普通だ。
複雑な視線をゼートに向ける。俺よりも10センチはあるな確実に。ウェイト
なんか考えるのも空しい。ちくしょうアサシンめ。


「・・・どうした?」

「や、別に」



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