第十三話


――なんだかすごく気持ちが良い。
サラサラしてるしふかふかだし、もうずっとこうしていたい。
そういえば俺の布団干したのいつだっけ、こんな最高に気持ち良いハズないん
だけど―――


「―――――!?}


飛び起きるようにして目が覚めた。なんで布団で寝てるんだ俺?慌てて周りを
見渡したが、あの男の姿はどこにもない。もうとっくに太陽は昇ってるみたい
で、カーテンが閉められてても部屋は薄ぼんやりと明るかった。特に何が置か
れているでもない質素な部屋。全部木で出来てるからなんか落ち着くけど。

ゲームに出てくる宿屋ってこんな感じなのかなぁ、なんて考えながらしばらく
ボーッとしていたが、ふと違和感を感じて身体を見下ろすと、服が変わってい
ることに気が付いた。い、いつの間に? とりあえずベットから降りようと思っ
て更に気付く。足首に包帯が。

様変わりした自分を凝視していると、ドアが微かに軋んだ。顔を上げると、男
がトレーを持って部屋に入ってきていた。

「――目が覚めたか」

そしてテーブルの上に食いモンをのせると、顎を持たれてじぃっと検分される。
その凄まじい居心地の悪さに目を泳がせながら必死で耐えていると、俺の口辺り
で視線がピタリと止まった。ヒィ。

「・・・腫れているな」

親指ですっと唇を撫ぜられる。ピリッとした感覚に、心臓が激しく飛び跳ねた。

「か、噛んでたから!足、手当てしてくれてさんきゅ」

ぎこちない動きで立ち上がり、テーブルの前に座りなおす。
心臓が痛ぇ。何でそうあんたの言動は心臓によくないんだ・・・・。
ぐったりとテーブルに突っ伏していると、男も俺の向かい側に腰を下ろした。

「丸一日、何も食べてはいないはずだ。食べろ」

そう言って俺の方にスープを寄せてくる。そういえば微妙に胃が気持ち悪いよ
うなないような。つーかもう色んなことがありすぎてすっかり忘れてたわ。
意識するとめちゃくちゃ腹が減ってきたので、ありがたくご馳走になった。男
と二人、向かい合って黙々と皿を空にしていく。俺のが断然食ってるけど。

最後に水を飲み干して一息ついたとき、男が静かに問いかけてきた。

「・・・なぜ、あのような所に」

それは俺だって聞きたいよ、何で俺が。つーかあんたも。俺が今までの不満を
全部ぶちまけるかのように拉致されたことを話すと、男は眉を顰めて俺を見た。

「メリディアナの涙?」

「そう、もうマジ意味わかんねえ。だいたい弟子とか前提からして間違ってる
 し最悪」

ぎりぎり歯を噛み締める俺に男は不審げな眼差しを向ける。

「・・・・お前は一人で住んでいたのでは無かったか」

――あ。そ、そういえばそんな風に誤魔化したんだっけ俺。やっべ。

「や、別にわざわざ言うほどのコトでもねぇかなって思って!
 ・・・それにもう、死んじゃったし、」

慌てて弁解したが、肝心の男は何やら考えている様で全く聞いていない。あん
たから訊いといてその態度は何だコラ。
ちょっとムッとしたが、この男は命の恩人、それを補って余りある恩がある。
大体俺なんか真っ先にこいつを疑って――・・・

「・・・・・・・・・・・・」

俺は自分の最低な過去に気付いてしまい一気に頭が冷えた。
そうだ、俺、こいつのこと疑ったんだ。勝手に疑って罵倒し倒した相手に助け
られてる俺って何様? 

真剣な顔で考え込む男を見てられなくなって、手のひらで目を覆った。どうし
よう、これって謝るべき? でもこれでこの男が怒っちゃったりしたら、俺はこ
れからどうすればいいんだろう。こんな所で放り出されたら、もうどうしよう
もないのに。俺一人でどうしようもないよ。どうしよう、別に言わなくてもバ
レやしない。でも。

そろりと顔を上げると、男も丁度俺を見たところだった。

「・・・セタ。やはり狙われた理由を確かめなければ、これからも危険が及ぶだろう。
 これからその、“涙”について調べてみるべきだ」

「・・・・・うん」

テンションの低い俺に、軽く男は微笑む。

「お前には助けられた。今度は私が、お前を助けよう」

――ああ。なんでそんな風に言うんだよ。なんでそうなんだ。爺さんも、あん
たも。俺なんか、自分のコトばっか考えてんのに。

「・・・・・・・・・ごめん・・・・・」

俯く俺の頭に、男の手がのせられる。本当にごめん。

「もう十分助けられてんのに、俺・・・」

「大した事ではない。それに、困った時はお互い様、なのだろう?」

その言葉に顔を上げた。少し目を細めて笑ってる男。それを見たらなんだかす
げえ泣きたくなってきた。俺は色んな人に助けられてる。



「―――ありがとう・・・」




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