reborn undead

――トンネルを抜けたら、そこは異世界でした――


死後の世界といえばやはり、三途の川と賽の河原ではないでしょうか。
鬼が早逝してしまった子ども達の霊をいびり倒し、新参者は脱衣婆に追いかけ られる。
六文なければ舟にも乗れず、地獄の沙汰も金次第。
そう考えてみると私、あの世でも上手くやっていけそうです。

ああ、もしかしたらキリスト教圏の方はご丁寧に天使様なんかがお迎えに来て 下さるのかもしれませんし、ロマンチックにもお花畑を歩いて昇天したりする のかもしれませんね。
それもなかなか風情があって宜しいかと思います。

しかし、しかしですね。
時たま幽体離脱とやらで耳にする「トンネルを抜けるとそこは花畑だった」と いうのはいささか近代化され過ぎていてつまらないと私は思うのですよ。
一生に一度しか体験できない「死」という体験、更には有り得ないと思ってい た死後の世界まで体験するにあたって、そんな夢のない演出は断じて許すこと は出来ません。そんな中途半端に近代化を進めるというぐらいなら、いっそ近 未来的なまでに「トンネルを抜けるとそこは宇宙だった」というような超SF 的展開を期待したいものです。

つまり、何が言いたいのかというと、私という人間は非常に現実的で物質主義 の人間であり、現実に非現実的な夢を語るなどという無駄な行動はサンタクロ ースの正体を知ってからというもの一度たりとも経験したことはなく、こうし て実際に死後の世界という非現実的な世界に身をおいて初めて、そのような夢 物語を語れるようになったというわけです。
柄にもなく少々はしゃいでさえいます。

生前の非現実が死後の現実になったのだと考えると、つまりそれは私の現実主 義はいささかも損なわれてはいないのではないかとも考えられるのですが、ま あそんなことは瑣末なことです。

――死後の世界って、楽しい!

こんな晴れやかな気分は新しい数式を解することが出来た時以来 ではないでしょうか!

ああ、もう二度とは会えぬ友よ、ただ一人の親友よ。
君の理論は正しかった。


今の私は君の大好きな、『亡霊』なのですから!



トンネルを抜けたら、そこは異世界でした。



『それにしましても「トンネルを抜けるとそこは異世界だった」というのは流石に予想外のパターンですね。 いや、SF的に進化するよりもいっそ夢のある展開で私としましては非常に満足なのですが、なにせファンタジーにはい ささか疎く――』


――で、異世界からどうやって成仏すれば良いのですか?


「きゃあああぁあッ!!」
「魔物だ!魔物が出たぞーーーー!」
「アンデッドっアンデッドだぁあああぁ」
「ひぃぃいぃぃいいいぃッ!?」


昼日中から出現した常識外れの『亡霊〈アンデッド〉』に、小さな田舎町は阿鼻 叫喚の渦に巻き込まれました。






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