数奇なる鈴蘭の声を得るは涼風
爽やかな風に揺れるカーテン、その前にひとつの小さな鉢が置かれていました。
中には小さな黄色の花が植えられています。
そしてその花弁をなでる王子様がひとり。
「魔の森にも、この花は咲いていたのですね・・・・・」
その黄色い小さな花は、王子様のお母上が神殿の庭で育てていたものと同じ花でした。
王子様の記憶に残る、在りし日のお母上の姿。王子様と同じ美しい水色の髪には、いつも
その黄色い花が揺れていたのでした。
黙って可憐な花を見つめていた王子様の口から、知らず知らずのうちに小さな歌声が零れ
出していました。
晴れた日には、お母上はその黄色い花を摘みながら、綺麗な歌を王子様に聞かせてくれま
した。そして王子様も、優しく自分を見つめるお母上に摘んだ花を差し出しながら、声を
合わせて歌ったことを思い出したのです。
小さく風に揺れる花を見つめながら、懐かしく優しい歌を、王子様は歌い続けました。
ふと王子様が気が付くと、もう空は茜色に染まっていて、風もひんやりとしています。
小さな黄色の花が傷んでしまわぬように、王子様はそっと窓を閉めました。
そして部屋を出てみると、扉の前に倒れこむ魔狼が一匹。
「――おや、ついに貴方も伏せをマスターしたのですか」
「で、でめぇ、ぢげぇよぼげ・・・・! おま゛、い゛ま、ぜいがうだっで・・・・」
「・・・・・・・・・・・・あ。」