凝って薄紅 弾けて水色 「お帰りなさい」 魔狼が狩りから帰って来たので、王子様は夕食作りの手を止めて振り返りました。そんな 王子様の顔を、魔狼は扉の前に立ったままじっと見つめています。 「どうかしましたか? 挨拶も無しとは良い度胸です」 「お、おぅ、ただいま、」 話しかけてみればキチンと返事は返すものの、どこか様子のおかしい魔狼に王子様は眉を しかめて問いかけました。 「何ですか、人間でも食べちゃったんですか」 「食うかアホ!――ただ、ちょっと珍しいモン見つけたから、お前にやろうかな、って・・・」 お土産を持って帰ってくるのはそう珍しいことではありません。なのになぜ今回に限って 挙動不審なのか、王子様はとても不思議に思いました。 「珍しいもの・・・?」 首をかしげる王子様に、魔狼はごそごそとポケットから取り出したモノを投げてよこすと、 「コップに水入れて、それ中に入れたら窓の前に置いとけ」 そう言って、さっさと部屋から出て行ってしまいました。 黙って見送った王子様が手のひらに目を落とすと、そこにはまるい薄紅色の玉。 * それから魔狼はずっとお酒を飲んでいて、王子様の質問には何一つ答えてはくれません。 仕方が無いので、王子様はただただ水の中で揺れる薄紅色の玉を眺めていたのでした。 「――――そろそろだぞ」 いい加減もう寝てしまおうかな、と王子様が考えていると、グラスに口をつけながら魔狼 が呟きました。 その言葉に王子様がコップを覗いてみると、窓辺にさしこむ月明かりの中、薄紅色の玉が パチンと弾けて、水色のうつくしい花を咲かせたのでした。 驚いた王子様がゆらゆら揺れる花弁を見つめていると、後ろから魔狼の腕が回されている ことに気が付きました。振り返ろうと思っても、ガッシリと抱きしめられて身動きが取れ ません。 「貴方発情期かなにかですか、ちょっと苦しいんですけど」 「それ、かなり珍しーヤツでよォ、今の時期しか咲かねぇから見つけんの苦労したんだぜー」 魔狼は王子様の言葉が耳に入ってはいないのか、王子様の首筋に顔を埋めてもごもごと喋 リ続けるばかりです。王子様はそんな魔狼に呆れたようなため息をつくと、また水の中の 花に視線を戻しました。 「思い出したら、どーしてもおまえに・・・・、 ―――・・・それは、おまえの、花、だ――」 そのままうとうとし始めた魔狼にちいさく笑った王子様は、もう一度水色の花に目をむけ ると、魔狼を寝かしつけてその横にもぐり込みました。 しばらくして、パチリと目を開けた魔狼がそっと王子様に口づけたことは、窓辺の水中花 だけが知っていること。